ソニー・ホンダモビリティの水野泰秀会長兼CEO(撮影/米倉昭仁)
ソニー・ホンダモビリティの水野泰秀会長兼CEO(撮影/米倉昭仁)

「極端な話、試作車1台くらいならどこのメーカーでもできるんですよ。でもEVの生産を事業化する、というのは非常に難しい。なので、ソニーはホンダと組んでそれぞれの得意分野で協力しましょう、ということになったと思われます」

 東京大学宇宙航空研究所(後に改称)から転身し、F1マシンのチーフエンジニアを務めた経歴を持つ舘内さんは、そう解説する。

 では、ホンダのメリットは何か。

 これについて、新会社設立発表会でホンダ出身の水野氏はソニーと組むメリットに、「エンターテイメント、ミュージック、それからゲームを製品に生かせること」と説明し、こう続けた。

「センサー技術の知見はかなりのものと認識しています。ぜひ、これを取り込みたい」

 例えば、VISION-Sにはイメージ・センサーを中心に合計40個のセンサーが取り付けられている。

 実は、ホンダにとってエンターテインメントのコンテンツよりも重要なのは、高度な運転支援や自動運転を実現するのに必要なセンサー関連のノウハウである。というのも、新会社が目指す「高付加価値のEV」は、それなしには実現し得ないからだ。

 水野氏が、「レベル3(条件付自動運転)、これが一つの高付加価値だと思います。そういうことをきちんとやったうえでのエンターテイメント」と言うと、ソニーグループ出身の川西氏もこう補足する。

「安全運転の技術が進化していって、運転に必要な集中力がだんだん軽減されていく。それをふまえて、新たな車内空間での楽しみ方を考えていくべきだと思います」

 安全な自動走行が保障されなければ、運転者も同乗者もエンターテインメントどころではないだろう。

「ホンダはまだまだ勉強中」

 自動車を人間の体に例えると、「骨格」や「筋肉」をつくるのはホンダにとってお手のものだ。しかし、自動運転に必要な周囲の状況を認識する「目」や、その情報をもとに思考する「脳」についてはソニーの得意分野で、「かなり知見をお持ちのソニーと比べると、ホンダはまだまだ勉強中」(水野氏)と、大きな開きがある。

 もちろん、ホンダも80年代から自動運転の研究を行ってきた。しかし、それに関連するイメージ・センサーなどの研究について半世紀の歴史を持つソニーとでは、技術の厚みがまったく違う。

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