今や小・中学校などのカリキュラムに「がん教育」が定められるほど、がんは身近な病気です。「生涯のうち、2人に1人ががんになる」とされ、そう遠くない日に自分や近しい人にがんが見つかることもあり得ます。その時、自分の病気に落ち着いて対処できるでしょうか。また大切な人をサポートできるでしょうか。
自分には関係ないと決めつけず、いつ来るかわからない事態に備え、がんについての知識を蓄えましょう。そこで「腫瘍とがん」の基礎知識を東京医科歯科大学医療イノベーション推進センターの石黒めぐみ准教授に聞きました。Q&A形式で、前編・後編の2回に分けて解説します。
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Q そもそも、「がん」とは何なのですか? どうしてできるのですか?
A 細胞の遺伝子に傷がつき、異常な細胞が無秩序に増殖して「がん」になる
人間のからだは、膨大な数の細胞が集まってできています。一つひとつの細胞には遺伝子があり、遺伝子の働きにより臓器の役割が決まったり、細胞の増殖がコントロールされたりしています。また、日々の生活のなかで遺伝子にはしょっちゅう傷がつくのですが、その傷を修復する、または傷のある細胞を排除するなど、リカバリーの働きをする遺伝子もあります。
ところが、リカバリーの仕組みに異常があると、遺伝子の傷が修復されずに残ってしまうことがあり、さらに傷がいくつも蓄積されると、がん細胞になります。
例えば、皮膚の細胞が垢(あか)となってはがれ落ちるように、通常、正常な細胞はある一定以上に増殖しないようになっています。しかし、がん細胞はその仕組みがおかしくなっていて、どんどん無秩序に増殖します。その結果できた厄介なかたまりが、「がん」というわけです。
がんには、大きく分けて「固形がん」と「血液がん」があります。さらに固形がんは、胃腸や気管の表面(上皮)から発生する胃がんや肺がんなどの「癌腫」と、骨や筋肉などを作る細胞ががん化する「肉腫」に分かれます。「固形がん」とは、かたまりを作るがんのことを呼び、「血液がん」の多くは白血病のようにかたまりをつくらないがんです。