インド聖地巡礼の旅に出かけたこともある。1998年1月に、ラージギルにある霊鷲山で(写真・勝山泰佑)
インド聖地巡礼の旅に出かけたこともある。1998年1月に、ラージギルにある霊鷲山で(写真・勝山泰佑)

「うちには代々秘書がいて、器量のいい、頭のいい秘書もいたけれど、その子たちは全部34、35歳で結婚しました。それまでさんざん遊んで、最後に結婚して。それでうまくいっています。だから、そんなにあわてることはない。だから、何でこんなに35歳で必死になっているのか不思議に思います。今はもう、(全体的に)婚期が遅れているから、悠々としていればいい」

 これに続く「結婚したい、は顔に出る」には、なぜだかクスッと笑ってしまう。

「そして、縁談が欲しいとか、男が欲しいとかって思うと、体に出るのか、表情に出るのか、相手が逃げるのね。恋愛関係においても、追いかけるよりも背中を見せたほうが、相手は追いかけてきます。だから、仲がうまくいかない場合は、とりすがって、『こっちを向いて』と言わないで、『あなたがそうなら、私も恋人をつくるわ』というふうに背中を見せると、今まで向こうを向いていたのが、あわてて追いかけてきますよ」

「だから、『結婚したい、したい』と思ったら、それが顔に出ているんだと思うの。そうすると、結婚のほうが逃げていく。だから、悠々としていればいい。この人は美しい人らしいし、健康な人らしいですね。そして、才能もあるらしい。だから、悠々としていればいいんですよ。そうすると、周りが自然に縁談を持ってきます。焦らないこと」

 では、焦らないためにはどうすればいいのか。

「ほんとに仕事を好きになればいいんですよね。そうすれば、『結婚したら不便かな』と思ってくる。そうすると、かえってそこに魅力が出るんですよね。だから、良縁を得ようとして、焦っていたら、それは顔に出ます。いくらお化粧したって、さもしくなる。だから、悠々としていればいいんです。35歳なんて、今はまだ若いですよ。それで、美しいでしょう。お化粧の仕方もよく知っているし、化粧品もいいのがあるし。ですから、今の35歳なんていうのは、昔の25歳ですよ、外見はね。だから、ちっとも卑下することはない。『人は人、自分は自分』と思えばいいの」

「それで、もしかしたら、自分の周囲にこの人にあこがれている男の人がいるかもしれないのよ。それに気がつかないのよ、この人は。結婚っていうのは遠くから来ると思っているからね。だから、自分の周囲をもう一度見回したら、すぐそばに自分に対してあこがれている男の子がずうっと待っているかもしれないの。それは、年下でも年上でもいいですよ、そんなことはね。ほんとに自分を求めてくれる人が、私はいると思うのね。気がついていないんですよ、遠くばっかり見ていて」

 自分自身のことだけではなく、外に目を向けて、という締めくくり方が寂聴さんらしい。

「自分を磨いていろいろな努力をしているでしょう。その努力をほかのことに回したらどうかな、もうちょっとね。例えば、被災地に行って、何かボランティアをするとか、そんなことをしてみたらいいんですよ。あるいは、バザーを開いてお金を集めるとかね。自分のことじゃなくて、世界と自分っていうことを考えたほうがいい。そうすると、結婚ということだって非常に軽いものに見えてくる」

 CD付きパートワーク「古寺をめぐる こころの法話」の連載企画「寂庵ほほえみがたり」で収録した寂聴さんの語り2時間42分の一部は、2022年10月20日に発売する『【CDブック+音声ダウンロード付き】瀬戸内寂聴 ほほえみがたり』に再録。この記事でご紹介したものは、すべて含まれている。音声で聞くと、ときに優しく、ときに厳しいアドバイスがさらに心に響く。


(構成 宮本治雄/生活・文化編集部)