だが投票の結果、わずか8ポイント差でベルを上回ってMVPに選出されたのはモー・ボーン(レッドソックス)だった。ボーンは打点こそ126でベルとタイトルを分け合ったものの、打率は3割1分7厘のベルより下の3割ちょうど。本塁打(39)、得点(98)、長打率(5割7分5厘)とほぼ全てのスタッツがベルを下回っていた。

 ならばなぜこのような結果となったのか。原因としてはベルの素行の悪さが記者たちに忌避されたからとも言われている。ベルは若い頃から問題行動が多く、アルコール依存症のリハビリを必要としたり、ファンにボールを投げて骨折させたことや死球に怒ってピッチャーに暴力を振るって出場停止処分を受けた過去も。さらにこの年の前年、94年にはコルクバットの使用が発覚したばかりだった。

 こうした振る舞いを快く思っていなかった一部の記者たちが投票でわずかながらもベルの順位を下げ、それが積もり積もったあげく8ポイント差でのMVP落選という結果になったとする見方もある。いずれにせよ、このMVP投票は拭えない汚点としてMLBの歴史に永遠に残り続けることになった。

 最近の例では、2012年のア・リーグMVP争いが記憶に新しい。このときは45年ぶりに三冠王となったミゲル・カブレラ(タイガース)と、屈指のファイブツールプレーヤーとして走攻守の全てでハイレベルな活躍を見せた驚異のルーキー、マイク・トラウト(エンゼルス)のどちらがMVPにふさわしいか激論が交わされた。

 打率3割3分、44本塁打、139打点、4盗塁のカブレラのrWARは7.1だったのに対し、打率3割2分6厘、30本塁打、83打点、いずれもリーグ最多の49盗塁と129得点を挙げたトラウトは守備での貢献もあって10.5。だが投票の結果は362対281の大差でカブレラに軍配が上がる結果となった。三冠王という偉業達成を重視した記者が多かったという証だろうか。

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大谷?ジャッジ? 今季のMVP争いの結論はいかに