現在のパトリック・チャン(写真・本人提供)
現在のパトリック・チャン(写真・本人提供)

 ニューヨーク在住の筆者は残念ながら見ることはかなわなかったが、知っているだけの詳細を話した。「そんなことができるのは、世界でユヅだけだと思う。信じられないスタミナですね……」とパトリックは感じ入ったように言葉を続けた。

 転職して家庭を持って父親となった自分と、かつて激しく競い合った羽生さんの今の環境の違いを改めて思って感無量だったのに違いない。

 だが実はパトリック自身、氷の上に復帰する予定だ。筆者が電話取材した数日前に、今年の「スターズ・オン・アイス」のカナダツアーに参加することが発表された。「つい2週間前から、トレーニングを再開したところなんです。コーチは妻のリズです」と嬉しそうである。「現役の当時から体重はかなり増えてしまったし、ジャンプをずっと跳んでいなかったので怖いんです。膝の怪我の影響も大きくて、今は1回転、2回転ジャンプから時間をかけて戻しているところです」。ツアーは、4月の末にハリファクスで開幕し、5月半ばまで12ショーが予定されている。

 一方、北京オリンピックで金メダルを手にしたネイサン・チェンは、どうしているのだろうか。アメリカの男子として12年ぶりに金メダルを獲得したネイサンは、北京オリンピック終了後、アメリカで人気トークショーやチャリティーイベントなど様々なところに登場。米国の「スターズ・オン・アイス」のツアーだけでなく、日本でも数多くのアイスショーに出演して忙しい夏を送った。現在は休学していたイェール大学に戻り、再びキャンパスで寮生活を送りながら学業に専念している。

 こうした忙しいスケジュールの中で、11月に自伝『One Jump at a Time』(ジャンプ一つずつ)が発売された。幼少時の思い出、家族のサポート、コーチとのトレーニングや葛藤など、北京オリンピックまでの道のりがまとめられている。大会の描写もあるが、ライバル選手についての記述はほとんどなく、主に自分の心の中でどんなことが起きていたのかを丁寧に綴っている。

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