『Ryuichi Sakamoto: Playing the Piano 2022』(c)2022 KAB Inc.
『Ryuichi Sakamoto: Playing the Piano 2022』(c)2022 KAB Inc.

 ライブ前半で特に心に残ったのは、「Tong Poo」(東風)だった。坂本龍一が参加していたバンド<イエロー・マジック・オーケストラ>の1stアルバム「イエロー・マジック・オーケストラ」(1978年)に収録されたこの曲は、中国的な旋律と西洋的な音楽を融合させた楽曲。YMOのコンセプトを端的に示し、世界中のリスナーに大きな衝撃を与えた名曲だ。「Tong Poo」のピアノ・ソロ・バージョンはこれが初めて。テンポを抑え、いきなり主旋律からはじまるアレンジも新鮮だった。後半は力強い低音を響かせ、心地よい高揚感を演出。楽曲の新たな魅力が伝わる名演だったと思う。

■ボーダーを超え続けた坂本龍一の軌跡

 後半は、坂本が手がけてきた映画音楽の代表作で構成されていた。まずは凛とした音質と壮大なスケール感を共存させた「The Sheltering Sky」(映画「シェルタリング・スカイ」より)、そして、日本人として初めて米アカデミー賞で作曲賞を受賞した「The Last Emperor(映画「ラスト・エンペラー」より)。「リトル・ブッダ」と同じく、ベルナルド・ベルトルッチ監督の映画の楽曲だ。共通するテーマは、西洋から観た東洋。当時は“日本人の作曲家がヨーロッパの巨匠と仕事をした”ということ自体もニュースになっていたが、この日の配信ライブの演奏を聴き、その音楽的な到達度の高さを改めて実感できた。通奏低音になっていたのは、出自や歴史を意識しながら、ボーダーを超え続けた坂本龍一の軌跡だ。

 もちろん「Merry Christmas Mr. Lawrence」も披露された。映画「戦場のメリークリスマス」のため制作された自身初の映画音楽であると同時に、作曲家・坂本龍一の評価と知名度を決定づけた楽曲だ。ドビュッシーに代表される印象派とアジア的な旋律を結び付けたこの曲は、まさに教授の真骨頂。演奏が進むにつれて集中力を上げ、研ぎ澄まされた音を響かせるパフォーマンスにも強く心を揺さぶられた。

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