『Ryuichi Sakamoto: Playing the Piano 2022』(c)2022 KAB Inc.
『Ryuichi Sakamoto: Playing the Piano 2022』(c)2022 KAB Inc.

 13曲を演奏し終わった坂本は、祝福するように手を合わせ、配信ライブは幕を閉じた。ライブ終了後、映像を通して坂本は「今回は初めてピアノソロで弾く曲もずいぶんあって、ピアノ用のアレンジは慎重に考えて、時間をかけてやりました。選曲も慎重にやって、自分としては、ここに来て新境地かなという気持ちもあります」とコメント。その言葉からは、どんな状況においても、自らの音楽を前進させたいという強い意志が感じられた。

■最新作も発表された

 配信コンサートに続き、ニューアルバム「12」の先行フル試聴も行われた。坂本のオリジナルアルバムは、2017年発表の「async」以来およそ6年ぶり。アルバム「12」は2021年の手術後、日記を書くように制作してきた楽曲によって構成された作品で、各楽曲のタイトルには制作日が銘打たれている。過酷な治療の合間に、まるで自らの感情と日常をスケッチするようにつづられた12曲は、ピアノとシンセサイザーを軸にした楽曲が中心。シンプルな編成の曲が多いが、その背景には彼が影響を受けてきた音楽、自ら培ってきた技術と創造性がしっかりと息づいている。水墨画のような簡素な筆致で、クラシック、現代音楽、エレクトロニカなどを経由した奥深い楽曲を描き出す。それは言うまでもなく、坂本龍一にしか体現できない音楽だ。

 アルバム「12」のリリース日(2023年1月17日)に71歳になる坂本龍一は、前述の通り、現在も治療を続けている。“がんばってください”“信じています”といった類の言葉は、たとえば親友や恋人、家族など、近しい関係性のなかでこそ発するべきで、そうでない場合にはかえって失礼になると筆者は考えているが――この考え方も教授の影響かもしれない――彼の状況を知るにつれ、どうにかがんばってほしいという気持ちを禁じ得ない。来年以降も教授の新しい音楽を聴きたい。今回の配信ライブ、アルバム「12」を聴き、その思いをさらに強くしたのは筆者だけではないだろう。

(森 朋之)

【Ryuichi Sakamoto: Playing the Piano 2022 セットリスト】

Improvisation on Little Buddha Theme

Lack of Love

Solitude

Aubade 2020

Ichimei - Small Happiness

Aqua

Tong Poo

The Wuthering Heights

20220302 - sarabande

The Sheltering Sky

The Last Emperor

Merry Christmas Mr. Lawrence

Opus – Ending

■Ryuichi Sakamoto: Playing the Piano 2022
https://special.musicslash.jp/sakamoto2022/index.html

■坂本龍一『12』
https://commmons.lnk.to/twelve

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