「おそらくVARは、証拠となる角度の映像をすべて確認したはずです。その結果、完全にボールが出たという映像は一つも見つからなかった。よって、ボールがラインを割らなかった、と結論づけた」
それはフィールドのレフェリーが映像を見たところで変わらない客観的事実である。なので「その情報を伝えられたレフェリーは最終的な判定として、ゴールインを決定した、という流れになる」と説明した。
VARが初めてW杯に導入されたのは18年ロシア大会。しかし、「VARで試合の流れを止めるなよ」という声もあった。そのため、今回のカタール大会では、オフサイドの判定をセミオートマチック(半自動)にした。
「これまでオフサイドの判定では、コマ送りにした映像を目視して、『ここ』と言って、もう一回映像を戻したり進めたりして、『じゃあ、ここにしよう』というふうに、『ボールが蹴られた瞬間』を決めていました。ただ、この作業は時間がかかるので、みなさんをお待たせしてしまいました。そこで今回はモーションセンサーを内蔵したボールを導入して、オフサイドの判定をセミオートマチック化しています」
モーションセンサーというのは動作を感知する装置で、これを内蔵することによってボールの動きが変化した瞬間を極めて正確につかめる。
「今回のW杯カタール大会では、ボールを蹴った瞬間をビデオで効率よく静止することができました。ですので比較的、短時間でオフサイドなどの判定の確認ができたのだと思います」
■ボール内センサーで半自動判定
ちなみに、Jリーグでは18年にVARの導入が決まり、20年の運用開始を目指して準備が進められた。19年のYBCルヴァンカップで試験運用後、本格的に使用する予定だった。だが、コロナ禍で20年の運用はすぐに中断。21年からフルシーズンでVARが使われるようになった。
VARはレフェリーが判定を下す際、正しい事実を見たかどうかをチェックする。それによって明らかな判断ミスが防げる。
「4つの項目についてはVARがビデオを見直すことになっています。(1)ボールがゴールに入ったとき、(2)ペナルティーエリア内で何かが起こってPKの可能性があるとき、(3)レッドカードに値する行為があったとき、(4)警告や退場の際の人違い、です。これらの状況が起こったとき、レフェリーの判断と、映像で見えるものが合致しているのかを確認します」