なぜ、これほどまでにゲタを履かせてしまったのか。寄附金ほしさである。文部省(当時)の調査では、A医科大は最高で3300万円の寄附金を受け取ったという。A医科大の合格者の親は8割が医師で開業医が多かった。2割は会社社長、役員などであり、大学の駐車場にはベンツやBMWなど高級外車が並んでいた。この問題は国会でも取り上げられてしまう。
A医科大、B医科大で裏口入学があった年に入学した学生の医師国家試験合格率は次のとおり。A医科大で1979(昭和54)年62.0%、1980(昭和55)年60.5%、1981(昭和56)年55.2%。B医科大では1979年61.3%、1980年62.4%、1981年42.5%。もはや医学部の体をなしていない。
しかし、この二つの大学は1980年代半ば以降、医師国家試験合格率が80%以上となり、まっとうな医学部入試が行われるようになった。1990年代以降、A医科大、B医科大では裏口入学問題はなくなり、国家試験合格率も落ち着いている。
一方、医学部の新設は、1979年の琉球大を最後に、2016(平成2)年の東北医科薬科大まで37年という長いあいだ、国から認められなかった。医師不足という現実に既存の医学部定員を増やして対応したのは、裏口入学が横行した「医学部黒歴史」があったからで、大学の新規参入によって医学部の質を落としたくなかったからだ。これは厚生労働省、文部科学省の医学教育担当者がよく話していたことである。
■ふるわない東京大、京都大の合格率
医学部人気は昭和、平成から令和の今日まで続いている。このなかで変わらず最難関なのが東京大理科III類(医学部進学課程)であり、日本の大学でもっとも偏差値が高いというのは、高校や予備校関係者の意見の一致するところだ。したがって、医師国家試験の合格率も東京大医学部が毎年ほぼ100%でランキング1位、以下、偏差値が高い医学部の順に並んでいる……と思いきや、そんなことはない。1980年以降では、1980年88.3%(22位)、1990年88.1%(32位)、2000年79.7%(50位)、2010年90.4%(42位、2014年90.2%(48位)、2016年89.3%(63位)、2018年90.0%(51位)、2021年91.1%(52位)。最近20年で30位以内に入ったことは一度もない。
京都大医学部の医師国家試験合格率もふるわない。1980年87.5%(23位)、1990年92.1%(15位)、2000年83.3%(29位)、2010年88.6%(54位)、2014年90.2%(48位)、2016年92.8%(34位)、2018年93.3%(26位)、2021年89.7%(61位)。東京大ほど悪くはないが、最近20年で上位10位以内に入ることはない。