昨年12月、政府は2023年から27年までの5年間の防衛費を計43兆円とすることを閣議決定した。これは現行計画の1.6倍となり、防衛費増額の財源として約1兆円は増税により確保する方針だ。岸田首相は施政方針演説でこう述べた。
<2027年度以降、裏付けとなる毎年度4兆円の新たな安定財源が追加的に必要となります。歳出改革、決算剰余金の活用、税外収入の確保などの行財政改革の努力を最大限行った上で、それでも足りない約4分の1については、将来世代に先送りすることなく、27年度に向けて、今を生きるわれわれが、将来世代への責任として対応してまいります>
防衛費の増額について、香田氏は自らが自衛隊司令官だった体験を踏まえてこう語る。
「私は約20年間の部隊勤務の後、東京で約11年間、ほとんど予算の主務をしていました。歴代内閣は防衛費をおおむねGDPの約1%以内に抑えてきましたから、防衛費のやりくりの辛さはよくわかっています。“1%枠”の中で、弾薬、燃料、教育訓練、部品購入などのロジスティックス(兵たん)を抑えざるを得なかった。これにより、自衛隊がゆがんだ形になっていたという思いはあります。そんな自衛隊の状態を修正するという意味で、防衛費を増やすことは間違っていません。ただ、防衛費が増額されたとしても、現状では、隊員の施策や後方支援をどうやって充実させるのか、教育訓練のあり方は変わるのか、など具体策がいまいち見えてこない。単に、見栄えのいい買い物リストが出されているだけのように感じます」
政府は、昨年12月16日に閣議決定した「安保3文書」の中で、相手のミサイル発射拠点をたたく「反撃能力(敵基地攻撃能力)」の保有を明記した。増額した防衛費の使途としても、「反撃能力」を行使するために、アメリカの巡航ミサイル「トマホーク」の取得に2113億円、国産のミサイル「12式地対艦誘導弾」の改良開発・量産に1277億円など、重点的に予算を計上している。だが、香田氏は敵基地攻撃能力の実効性には懐疑的だ。