乳がんでやってくる患者さんの場合、乳がんが崩れて大きな潰瘍を作っている人も珍しくありません。手のひらほどの大きさのこともあります。見ると痛々しい限りなのですが、その潰瘍の表面に軟膏を塗って、ガーゼを貼って、平然と日常生活を過ごしていらっしゃる。あわてていないところが凄いのです。
からだは、どうでもいいというのでは決してありません。長い間、大きな潰瘍を抱えていた患者さんが、どういうきっかけかオーソドックスな抗がん剤治療を受けることになりました。潰瘍は着実に縮小していき、それとともに患者さんはじつに良い笑顔を見せるようになったのです。
からだとこころ、いのちはお互いに影響し合って、良くなったり、悪くなったりします。
しかし、がんに負けない患者さんとは、自分のからだがどうであろうと、こころがしっかりしていて、いのちのエネルギーを高め続けることができる人です。そういう患者さんの中には、生と死を超えていつでも死ねるという境地になっている方もいらして感心します。
帯津良一(おびつ・りょういち)/1936年生まれ。東京大学医学部卒。帯津三敬病院名誉院長。人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱。「貝原益軒 養生訓 最後まで生きる極意」(朝日新聞出版)など著書多数。本誌連載をまとめた「ボケないヒント」(祥伝社黄金文庫)が発売中
※週刊朝日 2023年3月3日号