前述の男性には、ケアマネから、「介護職を全否定するのではなく、おかあさんが心地よく過ごせるように協力し合い、納得し合って、ベストな介護をつくっていきましょう」と説明しましたが、ヘルパーを否定するような男性の態度は変わりませんでした。その後、おかあさんは施設に入居されました。施設で幸せに暮らしておられることを祈るのみです。

■その不満は誤解から生じていないか確認する

 家族や親本人の思い違いや誤解から、不満が生じていることも少なくありません。

 その一つに、ケアマネ、ヘルパー、訪問看護師、訪問リハビリなど、それぞれの専門領域についての理解不足から生じるものがあります。

 ケアマネやヘルパーが、血糖値の測定や点滴の管理などの医療行為をおこなえないことは多くの人がご存じでしょう。逆に、訪問看護師に掃除や買い物を頼むこともできません。

 ヘルパーの仕事には介護保険上、さらに細かい規定があって、たとえば「リハビリの一環として、散歩に連れていってください」とお願いされても、ヘルパーは引き受けることはできません。リハビリは訪問リハの専門職がおこなうもので、ヘルパーの職域に入っていないからです。

 この決まりを知らずに、「面倒だから断るんでしょ、面倒がらない人に交代してほしい」と言われても、私たちは困ってしまいます。それぞれの専門職のできること、できないことがあるということを理解してほしいのです。

 また、認知症の初期で、家族がそれと気づかない段階で、親本人が「あのヘルパーさんはイヤだ」と言い出すケースでも、誤解が生じることがあります。

 たとえば、ある一人のヘルパーを嫌がるおとうさん。理由を聞くと、「あのヘルパーは夜、忍び込んでくる。泥棒かもしれない」ということです。もちろんそんな事実はなく、認知症で昼夜逆転しているおとうさんの見当識障害の結果でした。

 こういうときでも、おとうさんを頭ごなしに叱りつけたり、言うことを否定したりするのではなく、「あのヘルパーさんはおとうさんのことが気になって、夜も来てくれたのかもね」と言って気持ちを落ち着かせて、様子をみるようにします。

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認知症の場合には思い込みや妄想が起こりやすい