かつて私が体験した、何度もヘルパーの交代を要求されたケースをご紹介しましょう。
母親と二人暮らしをしている50代の独身男性。無職で、母親の年金で暮らしています。毎日のように「母のパジャマを自分が言ったとおりのものにしてくれなかった、母の髪形を自分が望むものにしてくれなかった」などと不満を訴えて、ヘルパーの交代を要求してきます。別のヘルパーに代わっても、また同じように代えてほしいと訴えます。母親を大事に思うあまりの行動と理解はできますし、我慢して介護を続けられるよりも申し出てもらうほうがありがたいので、私たちも適切に対処するように心がけました。
しかしあまりに度重なる交代の要求は、本当に母親のためになっているのでしょうか。
介護職を否定するかのような厳しい要求を繰り返すことで、最初に懸念されるのは、母親が適切な介護サービスを受けにくくなることです。その男性は介護職を遠ざけて欠けた部分を補うべく、自分なりに母親の面倒をみていましたが、介護のプロの手技には及ばないこともありました。
さらに心配だったのは、家族二人の生活はどんどん閉じられたものになっていき、ヘルパーが男性からのあまりの要望に応えきれず、訪問が中止されるような事態に陥れば、母親にとって唯一残された社会とのつながりを断ち切る結果になることでした。
これはまれなケースではありません。親子仲がよければよいほど、親を大事に思えば思うほど、この男性のような行動をとってしまう家族は多いのです。
ヘルパーやケアマネの交代希望の目的は、あくまでも、交代によってサービスが改善され、「親がさらに快適に介護を受けられるようになること」です。人と人とのつきあいですから、合う、合わないがあるのは当然のことですが、だからといってあなたの感情だけを優先するのはどうでしょうか。介護を受けるおとうさん(おかあさん)の社会は、あなたによって狭くも広くもなるのです。