経済だけではなく、政治や文化芸術にも造詣が深く、あらゆる主題を網羅した文筆活動を行っているジャック・アタリ。彼は、ソ連の崩壊、金融危機、テロの脅威、ドナルド・トランプ米大統領の誕生などを数々的中させてきました。そんな彼が、覇権国が衰退している世界をどのように捉えているのか、さらに今後日本がすべきことについて、最新刊『2035年の世界地図』で語った民主主義の未来予想図を、本書から一部を抜粋・再編して大公開します。
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■現代は「滅びゆくローマ帝国」と同じ道をたどっている
――ロシアによる国際法の軽視に対して、国際的にいろいろな議論があります。例えば、ポスト冷戦期は終わり、西側と対ロシア・中国という枠組みで、冷戦の初期段階が戻ってきた、というもの。あるいは、戻ってきたのは、全体主義あるいは帝国主義の時代であり、それはコロナ禍での人権制限やロシアのウクライナ侵攻が示している、というもの。あなたは、世界史の中で、現在に最も近いと思われるのはどの時代でしょうか。
私は、ローマ帝国の終末期に近い、と思っています。つまり、ローマ帝国が崩壊し、覇権国を継承する者がいなくなった時代です。それはまさに今起こっていることだ、と思うのです。
新しいローマ帝国になろうとしている国は、たくさんあります。ロシアや中国がそうですが、私の見解では成功しないでしょう。米国は徐々に衰退していくでしょうが、どの国も取って代わることはできないでしょう。
権威主義的な体制が長く続く時代になるということは、私には信じられません。例えば、20世紀は権威主義体制の世紀だった、と一面では言えるかもしれません。なぜなら、ヒトラーがいて、日本の軍事政権、スターリンもいましたから。
しかし一方で、世界には多くの民主主義国家が存在しました。そして最後には、民主主義国家が勝利を収めました。ドイツは民主主義国家です。日本も民主主義国家です。