「今の時代、何か伝える時にはちょっとした違和感が必要。じゃないと刺さりません」
日本酒は、蔵元自身が造ることで、独自の酸味や表現方法が出てくるなど、蔵元ならではのストーリーも生まれてくる。
「かつては失敗といわれたような酒でも、料理に合わせたら生きる。だから蔵元にはビビらずに造ってほしいです。デザインじゃなく、アートしてほしいです」
そんな日本酒の流れの最前線にいるのが、秋田の新政酒造だ。8代目の佐藤祐輔社長(45)は「日本酒界のスティーブ・ジョブズ」とも言われる。新政酒造は、現存する最古の酵母である「6号酵母」が発見された蔵としても知られ、最古の酵母から、もっともモダンな酒を造ると言われている。
6号酵母には香りも強い個性もなく、派手な酒が求められた時代には使われなかった。しかし、流行の酵母を使うと似た味になったり、どんなお米を使っても酵母由来の香りや味にかき消されてしまったりする弊害もあった。
「これから日本酒が向かっていくのは、蔵の多様性や地方の味を出したり、お米の味わいを素直に出したりする方向。そうなると6号酵母のような酵母の方が造りやすい。ただ、造り手の腕前や原料の良さや個性、製造工程の違いがよく出てくるので、ごまかしがきかない。今後の日本酒が向かっていく方向にはとても合っているんじゃないかと思います」
(編集部・小柳暁子)
※AERA 2020年2月17日号より抜粋