今年はついに、入試でスマホを使用する学校も登場した。東京女子学園中学校では、今年2月の一般入試で算数に限り、スマホの持ち込みを許可する。同校が「日本初」とする試みは、主に知識の量が問われてきた従来型の入試を見直し、「その能力を従来の知識の量とは異なったスケールで評価」することが狙いだという。

 ただ、知識を蓄えることを、そう簡単にスマホに「明け渡して」いいのだろうか。

「スマホを用いる能力は現代人にとって必須の能力であることは確か。将来、少なくとも一部の試験は、スマホ使用が前提になっているかもしれません」

 そう話すのは、脳科学者の茂木健一郎さん。しかし一方で、「常にスマホ前提で脳を働かせることでは発達しない能力があることも事実だ」と釘を刺す。

「脳は使う道具や置かれた環境で、働く回路が変わってきます。スマホを使って発達する能力もあれば、スマホなしでこそ発達する能力もある。とくに今日のように情報があふれている時代に、あえて自分の脳の中に蓄えられた記憶、情報だけで何ができるかを試みることは、創造性や想像力につながっていきます」

 認知科学の実験で、「これは後にグーグルで検索できる」として情報を提示すると、その情報の記憶される割合が有意に下がるという報告もあるという。ネットに情報があふれている今こそ、ネットだけに依存しない「生の脳の力」もまた必要かもしれない、と茂木さんは考える。

「実際に、英国のケンブリッジ大学や米国のハーバード大学など、世界の一流大学の入学試験の面接も、スマホなどの情報機器を一切使わず、その人のそれまでの学びだけで勝負させています。『素手』ならぬ『素脳』の力は、人工知能が発達するこれからの時代だからこそ、大切になるのかもしれません」

(編集部・小長光哲郎)

AERA 2020年2月3日号

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小長光哲郎

小長光哲郎

ライター/AERA編集部 1966年、福岡県北九州市生まれ。月刊誌などの編集者を経て、2019年よりAERA編集部

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