キャサリンさんは、百日咳が時として乳児に大きなリスクとなることを知っていた。だが、予防接種は打っていなかった。
「なんで打っていなかったんだろう。せめて、妊婦への接種プログラムさえあれば……」
アメリカやイギリスでは女性は妊娠するたびに百日咳ワクチンを打つよう推奨されているが、当時オーストラリアでは妊娠中の女性に対するプログラムはなく、キャサリンさんも予防接種の重要性を意識していなかった。
キャサリンさんと夫のグレッグさん(34)はライリーくんの死後、オーストラリア予防接種財団を立ち上げ、「Light for Riley」と名付けた啓発プロジェクトを始めた。金本さんが目にしたのは、そのフェイスブックでの発信だ。
キャサリンさんのもとには、世界中から「予防接種することを決めた」というコメントが届く。日本にも金本さんのような家族がいることを伝えると、こう話した。
「毎日ライリーが恋しいですが、彼の短い人生が多くの人々に影響を与えているのは素晴らしいことです」
百日咳で亡くす子どもをゼロにする。そんな思いを掲げ、キャサリンさんたちは行動を続けている。オーストラリアではライリーくんの死後、すべての妊婦が百日咳の予防接種を無料で打てるようになった。キャサリンさんはこう力を込める。
「子どもたちがライリーのように苦しむ必要はありません。子どもたちを守るために、家族や周りの人は予防接種をすべきです。特に、お母さんがワクチンを打てば、赤ちゃんに免疫という素晴らしいギフトを贈れます」
感染症は、感染してから治療するよりもワクチンで予防するほうが機能障害や重篤化のリスクがはるかに小さく、費用対効果も高い。感染後の治療には抗菌薬が用いられるケースが多いので、耐性菌が生じる恐れもある。
編集部は、久住医師の監修のもと、定期予防接種以外に打っておくといいワクチンをまとめた。自分自身のために、そして大切な人への責任として。ワクチンの意味をもう一度見直したい。(編集部・川口穣、小田健司)