麻疹、風疹、百日咳――。妊娠中の母親にとって罹患すると子どもに障害や命の危機をもたらす可能性のある感染症だが、ワクチン接種により予防できる。本人だけではなく、大切な人のためにもワクチンは重要な意味を持つ。AERA 2020年1月20日号から。
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ワクチンを打つことでマイナスはない。しかし、ワクチンを打たない後悔は大きい。そんな思いから発信を続ける人は世界中にいる。そして、それが海を越えて行動を促すこともある。
東京都の会社員、金本茂さん(53)は、妻が第2子を妊娠中だった去年11月、自身と妻、妻の両親の4人で3種混合ワクチンを接種した。意識したのは百日咳。健康な大人が罹患しても咳が長引くだけで重症化することは少ないが、乳児が感染すると重篤な合併症を併発したり、無呼吸発作を起こしたりして死に至ることがある。
ナビタスクリニック理事長で内科医の久住英二医師(46)によると、両親だけでなく、予防接種開始前の乳児と接する人は全員ワクチンを打つべきだという。3種混合ワクチンは生ワクチンとは製法が異なる不活化ワクチンと呼ばれるもので、妊娠中の女性も接種できる。大人が感染源にならないよう予防するのはもちろん、妊娠後期に接種すれば胎児に免疫が移行することが期待できる。
金本さんが予防接種に踏み切ったのは、ライリー・ヒューズくんの物語をフェイスブックで読んだのがきっかけだった。
「たまたまタイムラインに流れてきた投稿を読んで、百日咳が乳児にとって危険だと初めて知りました。予防接種をすることで、安心して子どもを迎えることができました」(金本さん)
15年、オーストラリアで生まれたライリーくんはわずか32日で短い生涯を終えた。百日咳の合併症として発症した肺炎が原因だった。ライリーくんの母、キャサリンさん(32)は最期のときをこう振り返る。
「腕の中に抱いたライリーの小さな体は熱く腫れていました。夫がライリーの手を握って横にしゃがみ、私たちは泣きながら彼にキスして、子守歌を歌いました。彼が亡くなり、私たちは本当に打ちのめされました」