


ホルモンバランスの乱れは、人の心身の健康に深刻な影響を及ぼす。その最たるものが「更年期」だ。やる気が出ない、死にたい、イライラする──。女性特有のものではなく、男性にも症状が表れる。どう整えればいいのか。AERA 2019年12月9日号から。
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初めに疑ったのは「うつ」だった。仙台市の会社員、加藤義秋さん(55)に深刻な症状が表れ始めたのは、今年初めごろから。気分が晴れない日が続き、イヤなことばかり思い出す。仕事でも小さなミスを連発した。
「車を運転していると、対向車が突っ込んできてくれないかなとか、そんなことばかり考えるようになりました」
趣味にも手が付かなくなった。山菜採りや山歩きが趣味で、以前はどんなに疲れていても毎週のように出かけていた。
「2年ほど前からなんとなく億劫に感じることがありましたが、あまり気にしていなかった。でも、今年になってほとんど出かけられなくなったんです。体は疲れていないのに、家を出る気力がなくて……」(加藤さん)
好きだった音楽や漫画にも興味がなくなった。おかしい。このままでは自殺してしまうかもしれない。「うつ」を疑い、心療内科を受診しようと妻(53)に相談すると、意外なことを言われた。
「それ、もしかしたら更年期障害じゃない?」
以前テレビで見た「男性更年期障害」の症状にそっくりなのだという。
更年期障害は女性特有の症状と思われがちだが、「男性更年期障害」と呼ばれる諸症状がある。順天堂大学泌尿器科教授の堀江重郎医師はこう解説する。
「女性更年期障害と並列させる意味で“更年期”と呼ばれますが、女性のように閉経前後の10年という明確な発症時期があるわけではない。いわゆる男性更年期障害とは、テストステロンという男性ホルモンの減少によって起こる諸症状を指します」
女性の更年期障害は程度の差こそあれ、誰もが経験し、時が来れば症状は消えていく。しかし、男性の場合はテストステロンの減少に伴う「病気」であり、治療や生活改善をしない限りよくなることはない。
テストステロンは、実は男女ともに持つホルモンだ。特に男性で濃度が高く、胎児の性分化や出生後の性徴に関わることから「男性ホルモン」と呼ばれる。