取材エリアに現れた羽生は怖いほどに落ち着いていた。
「レベルを落としてしまうようなことがあったりとか、あとは採点の方にも影響があるようなジャンプをしてしまっている。クリアじゃないジャンプをしてしまっているのは自分としてはすごい悔やまれる点。これはノーミスとはまだ言えないんじゃないですかね」
2位に20.55点の大差。それでも、少しのミスをした自分が許せず、反省が口をついた。
フリー当日。羽生は午前の練習で4回転ループを入念に確認した。直前にかがんでから跳ぶ練習方法で何度も、何度も感触を確かめた。本番前の6分間練習でも、主にループの練習に時間を割いた。そして、本番。冒頭の4回転ループで着氷が乱れた。GOEはマイナス評価。悔しさがこみ上げてきているだろうことは容易に想像できた。
しかし、真骨頂はここからだった。4回転サルコーをきれいに着氷。国際スケート連盟公認試合では世界初となる、4回転トーループ-オイラー(つなぎの1回転)-3回転フリップの連続ジャンプも成功させた。後半にある2本のトリプルアクセルからの連続ジャンプも決め、ステップ、スピンは最高のレベル4を獲得。フィニッシュポーズを決めると、最後に叫んだ。
「勝ったー」
割れんばかりの大歓声から一転、得点発表の瞬間は静まりかえる。「212.99」、「合計322.59」。自己ベストを大きく更新した。表彰式を終え、記者会見場に現れた羽生の表情は晴れやかだった。ここ2日では見られなかった笑顔だ。
「久しぶりに心の中から自分に勝てたなというふうに思える演技でした。この試合に来る前に、すごくプレッシャーをかけていて。300点を超えたいという気持ちはもちろんあったんですけど、それよりスケートカナダで優勝したいっていう気持ちが強くあって。そのプレッシャーに最終的に勝って、パーフェクトではないですけれども、二つ(ショートとフリー)ともまとまったいい演技を出すことができてよかった。今回の目標は達成できたと思っています」