今季、5度目のグランプリ(GP)ファイナル制覇に挑む羽生結弦選手。GPシリーズ自身初戦となるスケートカナダでは、圧巻の演技で優勝。五輪連覇の王者が、異次元の演技で本格始動した。AERA 2019年11月11日号に掲載された記事を紹介する。
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羽生結弦(24)は、スケートカナダ開幕2日前、試合会場のあるカナダ・ケロウナに到着した。開幕前日の公式練習。1回目の練習はショートプログラムの曲をかけた。冒頭の4回転サルコー、続くトリプルアクセル、4回転-3回転の連続トーループを鮮やかに着氷。練習後、「調子がよさそうですね」と聞かれると、羽生は淡々と語った。
「よさそうに見ていただけたならうれしいです。オータム・クラシックが終わって、試合のための練習を繰り返していたので。一発だけにかけるって感じではなくて、一つ一つかみしめるように調整をしてこられた」
どこか感情の起伏をおさえて、自分を制御しながら言葉を選んでいるようだった。背景には、今年3月の世界選手権で届かなかったネイサン・チェン(20)の存在があると説明した。
「彼本人と戦っているっていうよりも、自分がさらにエフェクトをかけた幻想みたいなものと戦っていた。すごい焦っている感じがあって。『早く(4回転)ルッツも入れなきゃ』とか、『早く構成あげなきゃ』って気持ちが強くあった」
だが、スケートカナダの1週間前に開催されたスケートアメリカで滑るチェンの姿を見て、悔しさからくる感情が、自分を苦しめるほどに増幅していたことに気づかされたという。
「ちょっと和らいだというか落ち着いてきて。彼の演技を見ていて、自分はやっぱりこういうタイプじゃない。自分の演技をしなきゃいけないなって思った。もちろん、彼にはない自分の武器もあると思うので、それをうまく使っていきたいなって」
自分らしく、羽生結弦らしく、勝負のリンクに立った。
迎えたショート。冒頭の4回転サルコーを決めた。続く、トリプルアクセルは出来栄え点(GOE)で9人中8人のジャッジが満点をつける完璧なジャンプを披露。4回転-3回転の連続トーループはわずかに着氷で体勢を崩しかけたが、GOEはプラスの評価。ステップはレベル3で取りこぼしたが、周囲から見ればほぼ完璧だった。