「コンサルは様々な領域の顧客と関わるため、奥深い知見と人脈が要です。結果的にその業界を経験した人物を求める傾向にあります」
また、ひとくくりにメーカーといっても、機械・電気・電子系と素材・食品・医薬品系のメーカーでは出身業界に違いを見て取れる。素材系に機械系のメーカーやサービス、商社の順に出身者が多いのに対し、機械系は商社がトップで素材系メーカーはその次にくる。
「素材系メーカーは、たとえばショールームといったサービス業の力量が問われる傾向にあります。また、医薬品も国ごとに規定があるため、現地で研究所を持つ必要があり、営業力が求められる。一方、機械系は対企業向けビジネスが多く、国内マーケットは小さい。それが数字に表れたのでしょう」(松本さん)
同業種のパイプが強そうに思える金融業界では、AI化などの影響もあり、他業界からの人材受け入れに力を入れている。大手金融の三井住友銀行では、転職者の7割が他業界からの出身者で占めていると広報担当は言う。IT・ウェブ系企業はもちろん、メーカーや通信系企業の採用実績も多い。バックグラウンドはさまざまだ。基幹産業や金融業界においても、「畑違い」など、もうないのだ。
そして、すべての業界に共通するのは、IT業界出身者の転職者が占める割合の大きさだ。
「アナログ業界ほど、テック化を急いでいる」
そう指摘するのは、前出の「ミドルの転職」天野事業部長だ。急速なIT化によって、旧来の業務やサービスのデジタル化はどの業界にとっても避けることができない。たとえば、自動車業界でも車の販売だけでなくカーシェアリングサービスといった新しい事業モデルを模索する段階に入っている。
それを裏付けるように、トヨタのこんな広告が話題を呼んだ。
<えっ!? あの電気機器メーカーにお勤めなんですか! それならぜひ弊社にきませんか>
<シリコンバレーより、南武線エリアのエンジニアが欲しい>
2年前、東京・立川と神奈川・川崎を結ぶJR南武線に出したトヨタの交通広告だ。なぜ、南武線だったのか。
「沿線沿いには、富士通やNEC、東芝といったITスキルを持った企業が立ち並んでいます。自分の業界ではとれない人材を獲得すべく、ピンポイントでアピールしたのでしょう」(天野事業部長)
(編集部・福井しほ)
※AERA 2019年9月30日号
【AERA 2019年9月30日号(9月21日発売)の特集は、「転職の新常識」です】