ただ決勝に向けて全てが順調というわけではない。現在最も安定していると思われる山本由伸(オリックス)を準決勝で投入したことで決勝での登板はなくなり、主戦を温存して準決勝に大勝したアメリカと比べると投手陣のやりくりは難しくなっているのだ。栗山監督は試合後に決勝戦の先発を今永昇太(DeNA)に任せると明言。今永はここまでリリーフでの登板で安定した投球を続けており、状態は良いように見えるが、ここまで一度も先発していない投手に決勝の先発を任せるというのはやはり簡単なことではない。立ち上がりに少しでも苦しいと判断すれば、すぐに他の投手をつぎ込むスクランブルでの起用が必要になってくるだろう。

 そんな中で期待したい投手として挙げたいのが高橋宏斗中日)だ。ここまでは1次ラウンドの韓国戦とオーストラリア戦で1イニングずつを投げ、オーストラリア戦ではソロホームランを浴びているが、ボール自体はかなり仕上がっているように見えた。3月4日の中日との強化試合でも2回をノーヒット、4奪三振で無失点と圧巻の投球を見せている。スプリットの威力は現在の日本球界でもトップクラスであり、アメリカの打者にも通用する可能性は高いだろう。

 チームで最年少の投手に大事な舞台を任せても大丈夫なのかという声も聞こえてきそうだが、今回の投手陣を見ると実績よりも現在の状態を重視して選んだことは明らかであり、中盤の数イニングを任せるのに最適な投手は高橋と言えるのではないだろうか。メキシコ戦でもプロ2年目の大勢(巨人)が見事なリリーフを見せているだけに、投手起用についても当初の狙いを最後まで貫き通してもらいたいところだ。

 先述したように準決勝が総力戦だった分、決勝はさらに苦しい戦いになることが予想されるが、これまでになかった強さを見せてくれていることは確かである。野球の母国であるアメリカを相手に、新たな侍ジャパンの持ち味を存分に発揮して、頂点をつかんでくれることを期待したい。(文・西尾典文)

●プロフィール
西尾典文 1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行っている。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

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西尾典文

西尾典文

西尾典文/1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究し、在学中から専門誌に寄稿を開始。修了後も主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間400試合以上を現場で取材し、AERA dot.、デイリー新潮、FRIDAYデジタル、スポーツナビ、BASEBALL KING、THE DIGEST、REAL SPORTSなどに記事を寄稿中。2017年からはスカイAのドラフト中継でも解説を務めている。ドラフト情報を発信する「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも毎日記事を配信中。

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