まさに死闘と呼べる一戦だった。
ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)の準決勝でメキシコと対戦した侍ジャパンは村上宗隆(ヤクルト)の逆転サヨナラタイムリーで劇的な勝利をおさめ、3大会ぶりとなる決勝進出を決めた。
中盤までは誰もが重苦しい空気を感じる展開だった。先発を任された佐々木朗希(ロッテ)は三回まで見事な投球を見せていたものの、不運なヒットから連打を許し、失投をスリーランとされて3失点。一方の打線も4回から毎回チャンスを作りながらもあと1本が出ずに六回までは0が続いた。過去の国際大会でも敗れるときはこのようなパターンが多く、その度に長打力不足と速くて動くボールへの対応が課題と言われ続けてきた。この日も6回まで放った5安打は全てシングルヒットであり、またロースコアで敗退するのかと思ったファンも多かっただろう。
しかしこの日の侍ジャパンは違った。七回に4番の吉田正尚(レッドソックス)が起死回生のスリーランを放って試合を振り出しに戻すと、その後2点を勝ち越されながらも、最終回には2本の長打(ツーベース)でひっくり返して見せた。こういった長打による逆転勝ちはこれまでのチームになかったことだが、これこそが栗山英樹監督が目指していた攻撃の形ではないだろうか。
ヌートバー(カージナルス)、近藤健介(ソフトバンク)という出塁率の高い選手を1、2番に置いていることももちろん大きな得点源となっているが、それを還すために3番以降は長打力のある打者を並べ、これまでの試合でも大谷、吉田、岡本和真(巨人)、牧秀悟(DeNA)が効果的な一発を放っている。最終回の無死一、二塁の場面でも、これまでのチームであれば代打を出して送りバントという可能性も高かったはずだ。そうすることなく村上の打撃にかけた栗山監督、そしてその期待に応えて見せた村上自身も見事という他ない。第1回、第2回とWBC連覇を果たした時に称賛された“スモールベースボール”からの脱却を感じさせる逆転勝ちだったことは間違いないだろう。