自分で決めたトレーニング、練習をやり通す意志の強さ、生真面目さを持つ。普段は穏やかな性格なのに、「海に入ると、人が変わるんです」(前田)。

 10代のころは、自分のアイデンティティーの置きどころに悩んだ。ハワイにいると「日本人だよね」と言われ、日本に来れば「アメリカの人」として扱われた。耐えられないような差別を受けたわけではないが、ストレスフルではあった。そんな葛藤を海の向こうに追いやってくれたのが、サーフィンだった。

 加えて、育ててくれたノースショアには、今も伝統的なローカリズムがある。地元のベテランサーファーがそのとき一番いい波に乗り、若者や子ども、外から来た人らは、その横の小さな波で邪魔にならないよう練習する。地元の海を守る人たちへ心からのリスペクトを示すのだ。

 前田は日本から波を求めて訪れる若者たちに、サーファーとしての礼儀を教え、世話を焼く。前田は日本人が忘れてしまいがちな、他者を尊重するこころを持っている。

「試合のときは、いい波が来ますように、ってマザーネイチャー(母なる自然)に祈るの」

 神頼みは日米共通のようだ。(ライター・島沢優子)

AERA 2019年8月5日号より抜粋

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