この改訂により、以前は「起伏型」とされていた「ウォーキング」「ユーザー」「ジョッキ」「ラベル」「雨靴」「護衛艦」「化粧水」「断熱材」などが、今後は平板型で問題なしとなった。
「平板化は今に始まったことではありません。遡れば大正6年、言語学者の佐久間鼎が『ガラス』『インキ』『ピヤノ』などの外来語が平板化している、と報告しています。外来語については、今回の改訂で69語、前回1998年の改訂では70語に平板型を追加しました。静かに、ひたひたと平板化は進んでいて、若い人ほど平板型が進行しているという印象です」(同)
改訂時の調査でも、若手アナウンサーほど平板化への「許容度」が高い単語も多かったという。
「平板化」はなぜ起きるのか。言語学者の井上史雄さん(77)は、著書『日本語ウォッチング』の中で興味深い指摘をしている。「省エネ効果」、つまり実際に話すときに平板型の方が起伏型よりも「ラクだから」というもの。たしかに「と“しょ”かん」と「と“しょかん”」を比べると、後者は腹筋への負担は少ない。納得だ。さらに平板型は、「アクセントを覚える手間がない」という意味でも省エネだという。
「上京したとき、アクセントがわからなくて迷ったら、とりあえず平板型でごまかす。地方出身者の『生活の知恵』としての平板化です」(井上さん)
アナウンサーの梶原しげるさん(68)は、自身は神奈川県出身だが、両親は山梨県出身だ。
「小さい頃、両親が私を『し“げる”』ではなく『“し”げる』と呼んでいました。山梨では多くの名前を起伏型で呼ぶ。つまり方言だったんです。現在仕事をしている山梨の放送局でも、部長の『か“おり”』さんを私を含めて皆が『“か”おり』さんと呼びますが、2人で東京に出張に行けば、私も『か“おり”』さんと平板化して呼びます(笑)。周りから田舎臭いと思われちゃうから」
その背景には現代の空気感があると梶原さんは指摘する。