近年は資格取得や生涯学習機関としての役割が高まる放送大学だが、それでも、10代、20代の放送大生を訪ね歩くと、変わらないセーフティーネットとしての存在感に気づく。それは経済的な理由だけではない。黒田沙羅さん(23)は中学卒業後、放送大学に進学した。中卒や高校中退でも、選科履修生か科目履修生として在籍して16単位を修得すれば、18歳以上で全科履修生として放送大学に入学できる。
黒田さんは伊豆半島の最南端に位置する人口約8千人の静岡県南伊豆町の出身だ。中学卒業後の進路は、隣接する下田市と松崎町にある普通科高校2校。または、地元にある下田市の普通科高校の分校1校。下宿して県外の私立高校に通う方法もあるが、経済的負担が大きすぎるため、選択肢は実質三つだった。
普通科高校に進学して、大学を目指そうと漠然と考えていた黒田さんだったが、中学2年生のときに高校を見学し、気持ちが揺らいだ。
「授業中に寝ている人の姿を見てショックでした。同じ中学から半分くらいはその高校に進学するので、知っている先輩もたくさんいます。人間関係も大きく変わらず、何か別の面白い選択肢がないかと考えました」
広域通信制高校などの資料を集めたが、自宅から通えず、学費も高い。目に留まったのが、放送大学だった。
「地方はバス代が高く、隣町の高校に通うと月額約2万5千円かかります。3年分のバス代より放送大学の学費のほうが安く、学士の学位もとれます。お得に思えたし、何より世界の異文化を体験するために、若い時代の時間を有効に使いたかった」(黒田さん)
その言葉通り、バイトでお金を貯め、16歳でアメリカ、18歳でカナダ、19歳でヨーロッパを旅した。必要な単位は6年間で揃え、1年間はワーキングホリデーでデンマークに渡った。今春、放送大を卒業したが、今もデンマークで仕事を見つけ、働いている。
黒田さんの弟の旬さん(16)も、中学卒業後に放送大学に入学した。