川崎市と東京都練馬区の二つの事件で、クローズアップされた50代の子を80代の親が支える「8050問題」。孤立しているのは、子どもだけではなく面倒を見る親もまた同じ。それゆえ、問題が深刻化するまで顕在化しないケースも多い。家族を救う手だてはないのか。
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練馬区の事件の家族の場合は、熊沢英昭容疑者(76)は農水事務次官というエリートで、社会的にも認められ、社交的な存在だった。そんな家族にも、長男の英一郎さん(44)のことだけは本音で相談できる相手はいなかったのではないか。
長年ひきこもりの支援に関わるNPO「遊悠楽舎」の明石紀久男さんは、練馬区の事件についてこう言う。
「なぜ、殺さねばならないのか。家庭内暴力があった時点で警察なり、外部に助けを求めるべきだったのに」
どんなに社交的な家族であっても、世間体などを理由に、ひきこもりの子どもについてだけは閉ざしてしまうケースは多い。
開業医の長男として生まれた男性(52)は、父からは「医者になれ」と、暴力も伴う「教育虐待」を受けながら育った。母に対する父の家庭内暴力も日常だった。
男性は医者になることを拒否し、教員を目指したが、採用試験には受からなかった。塾講師をしながら勉強を続けたが、27歳の時に体が動かなくなってひきこもった。
母親は、ひきこもり支援機関や精神科医などに助けを求めた。が、近所には息子の存在を隠した。男性は言う。
「母に、『この先、どうなるの? このままじゃ……』と言われるのがつらくて、なるべく2階の自室から出ないようにしました」
内閣府は今年3月、40~64歳のひきこもり状態の人が全国に推計約61万人いると発表した。2015年に生活困窮者自立支援法が施行されたことで中高年ひきこもりへの支援窓口が整ったが、その支援に結びつける一歩をどう見つけるか、が大きな課題だ。
男性はひきこもり状態にあった時、次第に思うようになった。
「今は両親がいるから食事もできるし生きていける。だけど、こんなの続くわけがない。絶対に破綻する」
自室にひきこもってから23年後に家を出た。そのきっかけは、母が頼る支援者の存在だった。