仕事も車内のオフィススペースで完結する。法事などの仕事依頼のファクスは、PDFに変換するサービスを使いスマホで受け取る。印刷が必要となればコンビニでできる。

「住民票は実家に置き、確定申告もして納税の義務は果たしています」(同)

 家賃など固定費がほとんどかからないミニマルな暮らしによって、自由な時間を得た。夏は海でサーフィン、冬は温泉地へ。気の赴くまま移動する。

「こんなぜいたくな暮らしないと思いますよ。全国に別荘を持っているのと変わらないですから」

 取材を終えたあと、今晩はどこに泊まる予定ですか?と尋ねると、スマホを取り出して駐車場アプリで検索。周辺のゼロ円駐車場がいくつも出てきた。

 移動ばかりの生活は疲れないのだろうか?

「僕は1カ所に停滞しているほうが疲れます」

 と静さん。移動生活を送っていると感覚が鋭敏になって、生きている実感も得られると言う。最近、気づいたことがある。

「ミニマルに暮らし、全国を説法で行脚するスタイルって、昔の僧侶と変わらないのでは」

 求めに応じ、今日も車を走らせる。(編集部・石田かおる)

AERA 2019年6月3日号