これに対して、前出の加藤さんはこう答える。

「あくまで、放送を前提としたデジタル施策です。民放さんは見逃し配信についても、それなりの原資を投入していると思いますが、私たちの予算規模は小さく、今回の紅白のデジタル施策も、既存のチームの中からメンバーを集めて回しています」

 総務省が認めるNHKのインターネット活用業務の予算の上限は年間200億円。今後、デジタルに使える予算が増えるという目算はあるのだろうか。

「デジタルに使える予算はNHKの中で上限が決まっているので、その中で、紅白でもできることをやったということです」(加藤さん)

 それ以外にも、公共放送であるがゆえにSNSの運用でも制約がある。

 まず、You Tubeからは収益を得ていない。広告も載せられないので、1円のもうけにもならないのが現状だ。ツイッターにも制約がある。

 前出の佃さんは言う。

「ツイッターは視聴者の方にフォローはしてもらっていますが、こちらからはフォローはしていません。誰かがリツイートしても、コメントも返信もできないんです。ではどうやってコミュニケーションを取るのかというと、直接的な返信はできないけれど、他の投稿で応えるようなことをしていました。一人一人の興味を肌で感じて、『じゃあこんなシーンはどうですか』と投稿を投げ返していく。遠距離恋愛のような感じですね(笑)」

 公共放送といえど、NHKも視聴率が厳しい状況にあるのは同じ。そんななか、国民的番組である「紅白」はどこへ向かおうとしているのか。紅白のデジタルPRを統括した大塚信広チーフ・プロデューサーはこう語る。

「時代とともに見てもらえる媒体も変化します。紅白も、その変化に合わせようとしているだけです。生放送で見てもらうことと同時に、見逃した人をどうやって『NHKプラス』につなげるか。その動線として、SNSを活用して独自の動画展開をしたわけです。かといって、紅白がネット番組になるとか、そういうことは全く考えていない。紅白はあくまでも紅白であって、みなさんに楽しんでもらえるコンテンツをつくり続けていくことに変わりはありません。今回はSNSを使ってみなさんと紅白をシェアできた、第一歩だったと思っています」

 今年の紅白はさらに進化したデジタル戦略を仕掛けてくるのか、注目が集まる。

(AERA dot.編集部・上田耕司)

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