

故人の思いを大切にした埋葬や、お参りしやすい墓へのニーズが高まっている。立派な墓石よりも思い出を。葬送の現場にも「モノからコト」への流れがあるようだ。
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見晴らしがよい高台に日がさんさんと降り注いでいた。海岸線の向こうに富士山がよく見える。絶景リゾートに来た気分になるが、ここは霊園だ。ベイサイド三浦浄苑(神奈川県)という。
墓石にはさまざまな文字が刻まれ、故人の海への深い思い入れを感じさせるものもある。
「絶景ですよね。とても明るいし、こんな眠り方もあるのね」
見学に訪れた自営業の女性(55)が言う。先祖の墓は四国にあるが、数年前に父を送った後、86歳の母親や自身の墓のことを考えはじめたばかりだ。
霊園にはプライベートビーチがあり、お参りに来た家族が浜辺でバーベキューや水遊びに興じることも多い。京急三崎口駅から車で20分ほどの距離に位置し、近隣に三崎漁港や京急油壺マリンパークもある。
「お参り帰りに漁港でまぐろ料理を楽しみ、マリンパークに行くという話はよく聞きます」(ベイサイド三浦浄苑担当者)
風光明媚(めいび)な土地に墓を建て、お参りする側は観光やレジャーを楽しむ「リゾート葬」が人気だ。簡略化した葬儀や墓じまいなどが注目される一方で、「行って楽しい場所」「思い出の土地」にお墓を作るという動きが生まれている。お墓の総合情報サイト「いいお墓」を運営する鎌倉新書の田中哲平さんは言う。
「盆暮れお正月お彼岸など、墓参りの時期は休暇期間と重なります。墓参りもしたいが、家族でレジャーも楽しみたい。思い入れある土地に眠りたい、といったニーズが背景にあります」
ベイサイド三浦浄苑も、2002年の開園当初は地元住民の問い合わせがほとんどだったが、この10年ほどで県外からの問い合わせが増えた。「海」や「富士山」といった検索ワードで調べてくる人も多い。
リゾート葬は価格面でも魅力的だ。都心の霊園であれば「1平方メートルで300万円以上するところもざら」(田中さん)のなか、ベイサイド三浦浄苑は約115万円から区画がある。