東日本大震災の発生から、ちょうど8年。多感な子ども時代に震災を経験した子どもたちは、被災体験を胸に成長し、いま社会のために動き出している。
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2011年3月20日、夕方。東日本大震災の発生から217時間が過ぎたころ、宮城県石巻市でひとりの少年が救助された。阿部任(じん)さん、当時16歳。津波で流され全壊した家屋のなかで、祖母とふたり9日間を耐え抜いた。人命救助の分岐点とされる発災72時間を大きく過ぎての救出劇。「奇跡の生還」に全国が沸いた。
一方、阿部さんは戸惑っていた。祖母が先に助け出され、自身の救助を待つ間にも人が集まってくる。
「ずっとがれきに閉じ込められていて、あんな大災害だったことすら知らなかった。なぜ注目されるんだと困惑しました」
病院に搬送される姿をとらえようとマスコミが殺到し、入院先の病室にまで報道陣がやってきた。注目を浴びるのも特別扱いされるのもいやだった。救ってくれたのは高校の友人たち。再開した学校に登校すると、さっそく友人に「怒られた」。
「お前のことを取材陣に聞かれて答えていたら、配給物資をもらい損ねた」
特別扱いするのではなく、なかったことにするのでもない。自然にいじってくれたことがなによりうれしかった。
高校卒業後は山形の芸術系大学に進学。高校時代シャットアウトしていた取材を時折受けるようになったが、それ以外で震災を思い出す機会は少なかった。石巻に戻ることも考えていなかった。転機は就職活動。自分のこれまでを振り返ると、震災の経験が頭から離れなくなった。
「本当に偶然だけど、あれだけ大きな経験をした。一度石巻に帰って、あの経験を改めて見つめなおしたいと思ったんです」
17年春、震災前から石巻の市街地活性化に取り組んでいたタウンマネジメント会社「街づくりまんぼう」に就職した。石ノ森章太郎の世界を体験できる施設「石ノ森萬画館」の運営など、ユニークな取り組みで知られる。萬画館には、小学生のころ毎週のように遊びに来ていた。