種類別のメディア接触時間(AERA 2019年2月4日号より)
種類別のメディア接触時間(AERA 2019年2月4日号より)

 近年、他人からの視線に耐えられない「視線耐性の低下」に悩む人が、若者を中心に増えているという。専門家は、デジタル機器の発達が影響していると解説する。

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 独立行政法人で働く団体職員の女性(29)はある日、iPhoneに新たに追加された機能「スクリーンタイム」でスマホの使用時間を見て、愕然とした。SNSやインターネットを中心に1日で4時間45分。この日が特別多かったわけではなく、過去1週間のデータを見ても同じような数字が並んでいる。

「確かに、使い過ぎかなという自覚はありました。朝目が覚めるとベッドの中でSNSをチェックして、ご飯を食べながらニュースを読んで。通勤電車のなかでもずっとスマホです」

 さらに仕事では、残業がない日でも5時間程度はパソコンを使っている。いわゆるデジタルメディアの使用時間は、1日10時間近いという。

「睡眠が7時間くらいだから、起きている時間の6割はスマホかパソコン。われながら、ちょっと異常ですね……」

 視線耐性の低下には、このデジタルメディアとの接触時間が大きくかかわる。「恋愛学者」として知られる早稲田大学国際教養学部教授の森川友義さんによると、視線耐性の高低を決定づける要因は大きく三つあり、「デジタル依存度」がその根本だ。そのほか、「対人経験度(人と話す経験値)」と「自信(自分への自信)」が挙げられる。人と目を合わせられなかったり、他人の視線が過剰に気になったりする「視線耐性の低い人」は、昔から一定数存在した。しかし現代、このデジタル依存という新しい現象が登場したことによって、対人経験度や自信がますます上がりにくくなった。

「デジタル依存度は、デジタルメディアとの接触時間にほぼ比例します。パソコンに続き、スマートフォンやタブレット端末が広く浸透したことで、若い世代を中心にデジタルメディアとの接触時間が激増しました。それが、視線耐性の低下が進む主要因です」(森川さん)

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川口穣

川口穣

ノンフィクションライター、AERA記者。著書『防災アプリ特務機関NERV 最強の災害情報インフラをつくったホワイトハッカーの10年』(平凡社)で第21回新潮ドキュメント賞候補。宮城県石巻市の災害公営住宅向け無料情報紙「石巻復興きずな新聞」副編集長も務める。

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