ブランコ・ミラノビッチさん
ブランコ・ミラノビッチさん
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 世界銀行の主任エコノミストも務め、日本などの先進国中間層の成長率の鈍化を見破り、的確に分析したブランコ・ミラノビッチ氏。この記事では、パンデミック下で導入されたさまざまなデジタル技術が民主主義に与えた影響と、ソーシャルメディアの今後の役割を分析。最新刊『2035年の世界地図』で描いた資本主義の未来予想図を、本書から一部を抜粋・再編して大公開します。

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■パンデミック下でのデジタル技術導入で失ったもの

――パンデミックの間、多くの国で、ワクチン接種の確認や接触者追跡システムなど、さまざまなデジタル技術が導入されました。これらは間違いなく、人々のプライバシーを侵害するものですが、自由民主主義国においてさえ、抵抗は非常に限られていたようです。パンデミックによって、監視技術がさらに導入される社会が受け入れられるようになった、とあなたは思いますか。

 これは、非常に難しい質問ですね。抵抗はもちろんありましたが、非常に弱かったと思います。多くの人が、この問題が非常に重要な(他の経済主体にも影響を与える)「外部性」に関わっていることを理解していたからだと思います。 

 もし誰かがワクチン接種を拒否したり、健康管理を怠ったりすれば、その人は周囲の人々にとって脅威となるかもしれません。これは、非常に単純な区別だと思うのですが、不思議なことに、それに気づいていない人も多いのも確かです。私がたとえばがんの治療薬を服用しないと決めることと、コロナの治療薬を服用しないと決めることの違いです。

 一方は、感染性があり外部性がありますが、他方はそうではありません。私たちは、感染症に内在する外部性を認識することで、このこと(プライバシーの一定の侵害など)を受け入れてきたのだと思います。

 しかし、監視社会は、実際に広がっていく可能性があります。巨大IT企業は基本的に、私たちが「誰と何を見るか」「誰と交流するか」「何を読むか」を管理する能力を有しています。

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プライバシーの縮小をどうとらえるべきか?