ブランコ・ミラノビッチさん

 そして、こうした巨大IT企業は実際に管理までしているかは別として、「私たちが何者であるか」を知ることができ、その情報を販売することができます。ですから、私たちは自発的にプライバシーの劇的な縮小を受け入れており、そのことに疑いの余地はありません。この縮小は、たとえ些細なことだと思っても、大変重要なことです。

 例えば、現金と電子取引の使用を比較すると、すべての電子取引は追跡可能です。何に使ったかだけでなく、物理的にどこにいて、何時何分に何をしたか、がわかります。現金取引の場合はそのようなことはないのに、私たちは電子取引を受け入れているのです。コロナの場合、私たちが(プライバシーの一定の縮小を)受け入れているのは正当な理由によるものだと、私は思います。しかし、それ以外の場合は怪しいです。私たちは、サービスを提供している巨大IT企業の権力とある程度、闘わなければならない。確かに貴重なサービスを提供してくれているのですが、その結果、私たちの自由がいくつかの側面でかなり大きく損なわれてしまうかもしれないためです。

――私たちは、公衆衛生対策だけではなく、経済政策などでも国家権力の劇的な増大を見てきました。より広い意味で、パンデミックは民主主義国家と、その国民の関係をどのように変えたとお考えですか。

 私は最初に、「コロナ禍」「米中の深刻な貿易摩擦」「戦争」という3つの大きな外生的ショックの話をしました。そのいずれもが、国家の権力を強める方向に働きました。コロナ危機でも、中国だけでなく、世界中のあらゆるすべての国で国家の力が強まっていることをお話ししました。さて、中国と米国の貿易紛争の状況を見てみましょう。ここでも米国は、国家の力を発揮して関税を課し、中国企業の上場を廃止し、中国の対米投資を承認する際の安全保障体制を強化しました。財産権についての考え方も、より強権的になっています。あらゆる面で国家権力が強化されています。

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