しょっちゅう様子を見ることもできないから、物件は荒れてゆく。親の家は売るべきか貸すべきか悩ましく、郊外の古アパートは建て直さないと貸すことも難しい。それ以前に、そんな財力はなかった。土地信仰の強い親族は「すぐ処分するのは親不孝」だと非難する。結局、複数の不動産会社に相談の上、売却すると決めるまでに何年もかかった。
親族は古い価値基準を押し付けてくるばかり。不動産のプロに相談の上で売却を決めたと説明しても「そりゃ向こうは商売だもの」と取り合わない。結局、誰にも伝えることなく売却し親族とも疎遠になった。
私のように、何の準備もないまま突然親に死なれてしまったら、どうすればいいのか。あるいは、親は生きていても親との折り合いが悪い、きょうだい仲が悪いなどで事前に話し合うことができない人はどうしたらいいのか。
家を捜索するのもひとつだが、公的機関などで調べると効率的だ。たとえば、生命保険は生命保険協会、損害保険は日本損害保険協会で照会が可能。ただし、災害救助法が適用された災害時のみ。不動産は法務局の登記情報提供サービスなどを利用できる。連絡先をまとめた(表参照)。
相続診断士、植木義久さん(52)が言う。
「ここで注意が必要なのは、金融機関などに死去が知られると口座や資産が凍結されてしまうこと。慌てず、まずは情報収集に徹してください」
親子やきょうだい、家族の不仲についてはどうだろうか。
「不仲でも、誰一人つながりのない家などありません。父親と子どもたちが疎遠でも、きょうだいの誰かがお母さんとは連絡をとっている、などさまざまなケースがあります。私たちのような第三者を立てれば、うまく切り抜ける方法を一緒に考えることもできます」(植木さん)
一人で背負い込まず、こうした第三者に間に入ってもらえば、私の相続騒ぎももう少しスムーズだったかもしれない。金銭的な損得以上に、わずらわしさや心理的負担まで考えたら、情報の収集とプロの助言は有効だ。(ライター・浅野裕見子)
【訂正とお詫び】
「生命保険は生命保険協会、損害保険は損害保険協会で照会が可能」とあるのは、「生命保険は生命保険協会、損害保険は損害保険協会で照会が可能。ただし、災害救助法が適用された災害時のみ」の誤りでした。おわびして訂正します。
※AERA 2018年12月31日号-2019年1月7日合併号