ショートは、ウィアーの代表作「秋によせて」。羽生にとっては「彼の柔らかい表現や姿勢の美しさに惹かれて、一つ一つの動作に気をつけて演技するきっかけとなった曲」。ウィアーを彷彿とさせる、両手を高く掲げる振り付けも入れて、柔らかな動きのプログラムに仕上げた。

 迎えた本番では、冒頭で連続ターンからの4回転サルコウを決めると、大歓声が起きた。ジャッジも惜しみなく「+4」「+3」を出した。次に、回転技からのトリプルアクセルも見事に決め、会場の空気を自分のものにする。新たな跳び方について羽生はこう話す。

「4回転サルコウは(チームメイトの)ハビエル・フェルナンデスがやっていたことを真似しました。彼は自分にとって大事な人なので。トリプルアクセルは僕だけの跳び方です。プラス評価を狙ってではなく、自分ができる最高のことを盛り込みたいという気持ちです」

 後半のステップシークエンスでは、観客の声援と拍手が会場にこだまする。今季から導入された「+5」を付けたジャッジが3人もおり、初戦から芸術的な滑りを評価された。ショートは97.74点で首位発進となった。

「ジャンプをまとめることができて、あとは質を上げる段階に持っていけました。すべてのジャンプに『まだまだできるな』という感覚があったので、また一皮剥けたなと言われるような演技を目指していきたいです」

 演技後には、ウィアーがネット上で「『秋によせて』は結弦のものだ」と称賛した。

 翌日のフリーは、プルシェンコの代表曲を使用し、「オリジン」と名付けたプログラムだ。

「『プルシェンコさんのように金メダルを取りたい』と憧れていた子どもの頃の気持ちを思い出す曲です」

 と言い、随所にプルシェンコらしい肩や背中の使い方を取り入れ、敬意を捧げる演技になっている。こちらは黒地に黄金の色が織り込まれた豪華な衣装で、皇帝と呼ばれたプルシェンコをイメージさせる。

 最初の4回転ジャンプ2種類は見事に成功。しかし後半はまだ滑り込めていない様子で、4回転サルコウを転倒すると、そこからジャンプもスピンもミスが連続した。演技を終えると手を膝について荒い息を繰り返し、笑顔は出なかった。

 フリーは165.91点で、同門のチャ・ジュンファン(韓国)に首位を譲った。総合263.65 点で優勝したが、納得はいかない。開口一番言った。

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