

タレントでエッセイストの小島慶子さんが「AERA」で連載する「幸複のススメ!」をお届けします。多くの原稿を抱え、夫と息子たちが住むオーストラリアと、仕事のある日本とを往復する小島さん。日々の暮らしの中から生まれる思いを綴ります。
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このところよく「日本人らしさ」という言葉を聞くけれど、それってなんだろうかと思います。テニスの大坂なおみ選手は3歳で渡米してアメリカで育っているけれど「彼女のしぐさや性格はとても日本人らしい」とか。
試合後にアメリカの記者会見で「なぜ表彰台で謝る(to apologize)必要があると思ったんですか」と質問された大坂選手は「ああ、その質問には感情的(emotional)になってしまう……みんな知っているけれど、セリーナは24回目のグランドスラムをとても勝ちたがっていた。自分はコートに入るとセリーナファンではなく一人のテニス選手として戦っている。でもセリーナとハグをした時に、(彼女に憧れている)幼い子どもに戻ってしまって……」と涙をにじませました。
彼女が表彰台でブーイングをする観客たちに向かって「こんな終わり方ですみません(残念です)」と言ったのは、日本人ならではの謙虚さというより、一人のセリーナファンとしての率直な言葉だったのでしょう。
人気司会者エレン・デジェネレスのトークショーでは、表彰台でセリーナになんと言われたのかを聞かれ「みんなはあなたにブーイングしているのではない、あなたを誇りに思うと言ってくれました」と笑顔で答えています。
彼女の魅力は、テニスプレーヤーであると同時に一人の感情を持った人間であることを素直に表現できるところ。超有名人のエレンを前にして「本物だあ」と喜んだり、記者会見でもトークショーでも、周囲の期待する答えではなく自分の気持ちを、盛りもせず卑屈にもならずに表現できるところです。そしてユーモアも忘れない。スポーツ選手らしいポジティブさを求める空気にも染まっていません。
その点では、空気を読み自由な発言を控えることを重視する日本型コミュニケーションとは異質のスタイル。
大坂選手独特の和やかで自立した佇まいは、彼女らしさとしか言いようがありません。またあの強靱なプレーと、はにかんだ笑顔が見たいです。
※AERA 2018年10月1日号