MCDAは、さまざまな評価軸が存在する複雑な社会課題に対して意思決定を行う際に用いられる手法で、英国の公共事業等で適用された事例がある。筆者は、これを1Fに適用するにあたり、(1)公衆安全、(2)作業員安全、(3)リスク低減効果、(4)廃棄物発生量、(5)コスト、(6)実現の不確実性、という評価軸を設定し、それぞれの評価軸の重みづけをAHP手法で決定。そして、たとえば放射線量が高くてアクセスが困難な2号機の原子炉建屋から使用済燃料を取り出すための構築物の最適な設計を、複数の候補のなかから、総合的な視点に基づき選択するための判断材料とすることを提案した。
1F廃炉業務をしばらく務めた後、日本原子力発電株式会社に3年間出向し、日立製作所が推進していた英国の原子力発電所新規建設プロジェクト(ホライズンプロジェクト)に参画した。米国でのSTPプロジェクトを主導した経験が買われてのことだった。ここでも、Touchy Feelyのテクニックを駆使して、ホライズンプロジェクトの英国人CEOダンカン・ホーソーン氏の懐に飛び込むなど、GSBのスキルが大いに役に立った。
このようななか、2018年、東京電力社内で次世代経営リーダー研修の公募があった。公募条件の一つが、「安定した事業環境下よりも変革の時代に求められる資質を強くもつ者であること」。迷わず申し込み、受講メンバーに選抜された。
選抜面接で、「経営層が椅子からずり落ちるような、革新的な事業を提案してもらいたい」と面接官からいわれた際、「いわれるまでもなく、そのつもりである」と即答したことが奏功した(と思われる)。今こそ、GSBで学んだ起業家精神を最大限発揮し、東京電力が福島の責任を貫徹するためにも、きちんと稼げる会社に生まれ変わるためのチャンスだ、と闘志を燃やした。
研修の最終発表で提案したのは、2点。1点目は、「アンチ・フラジャイル(=逆境で強くなる)」な経営戦略の構築。2点目は、「MegaWatt To MegaHash(MW2MH)プロジェクト」の実行である。アンチ・フラジャイルとは、ニューヨーク大学のナシム・タレブ教授が著書『Antifragile』で提唱した概念。タレブ教授は、“Fragile(脆弱)”の対義語は、一般にいわれている“Robust(強健)”や“Resilient(強靭)”ではなく、不確実性や外乱により一層強くなる“Antifragile”であるべき、と主張。