【図1】アジャイルエナジーX社のビジネスモデル
【図1】アジャイルエナジーX社のビジネスモデル

 東京電力PGでプロジェクト・マネージャーとして、MW2MHプロジェクトの概念実証(PoC)を進めていくなかで、当ソリューションに対する注目と期待度が高まっていった。経営層からは、新たな事業の柱として、第一線職場の社員からは、日々の業務上の課題解決策として。そこで、段階的に進めてきたPoCがまだ完了していない状況であったにもかかわらず、事業化を加速するために新会社を設立することを、2022年はじめに東京電力PGの経営層に提案した。

 当初は、PoCを完了させ、収益見通しが立ってから会社設立の判断をすべき、という意見が多かった。しかし筆者は、MW2MHプロジェクトの事業化は、東京電力グループが、GSBのチャールズ・オライリー教授が提唱する「両利きの経営(既存事業の「深化」と、新規事業の「探索」を高い次元で両立)」を実現するための試金石になると確信していた。このため、速やかに会社を設立し、走りながらアジャイルに事業化の見通しをつけるアプローチを採用しない限り、東京電力からイノベーションを起こすことはできない、と主張した。

 この主張は、侃々諤々の議論を重ねながら、徐々に東京電力PGおよび東京電力ホールディングスの経営層にも浸透していった。そして、新会社設立の機関決定を経て、2022年8月に株式会社アジャイルエナジーXが、東京電力PGの100%子会社として設立され、筆者が代表取締役社長に就任した。研修で構想を提案してから4年経っていた。

 アジャイルエナジーXの事業内容は、「分散コンピューティング(仮想通貨マイニング含む)を用いた、電力のデジタル価値への直接変換による、再エネ導入最大化と電力系統最適化」である。大量に電力を消費するデジタル装置の特性を逆手に取り、時間と空間を選ばず柔軟に電力需要を創出可能なソリューションとして、電力の安定供給とカーボンニュートラルを両立させる、逆転の発想に基づく事業である。

 世界にも類を見ないビジネスモデルのため、事業が軌道に乗るまで、アジャイルに試行錯誤を繰り返しながら、大きなアップサイドを狙っていくこととなる。なお、現時点でもっとも柔軟に電力需要を創出可能なソリューションは、Proof of Workというメカニズムに基づき、ビットコイン・ネットワークの健全性を確保するためのインフラ機能を果たす、ビットコイン・マイニング装置と考えており、この実装からはじめる。

 MW2MH事業の推進により、遠隔地の再エネや原子力を含むクリーンエネルギーの地産地消と地方創生が促進されるとともに、発電事業の収益性が確保され、ひいては日本のエネルギー基盤の「アンチ・フラジャイル性」の向上に資するものと確信している。

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アンチ・フラジャイルなエネルギー基盤の構築と人材育成