三つ目のキーワードは「チームマネジメント」だ。ザッケローニ、ハリルホジッチの両監督はいずれも選手間の競争原理をチームのベースとした。その結果、選手は自己アピールに走りがちだった。「自分がW杯のピッチに立ちたい」という心理をチーム強化に結びつけようとしたが、逆効果の面もあった。
そうした雰囲気は西野ジャパンにはない。大会前の3試合ですべての選手にチャンスを与え、戦術や分析のミーティングでは選手に意見を求める。そうした姿勢が自然と選手間のコミュニケーションを円滑にし、武藤嘉紀は「(原口)元気君や(乾)貴士君とも、お互いのドリブルが効果的になるよう話し合っています」と話す。
ポーランド戦は、先発6人を入れ替えた。16強以降の戦いを見据えたにしても、主力を外しすぎにみえる。その理由を西野は「同じメンバーで戦えただろうが、相当なダメージがあるので同じような戦いはできなかった」と明かした。
16強をかけた4チームの試合は同時に進んだ。日本が首位でキックオフを迎えたが、後半14分の失点で、そのまま試合が終われば3位に後退する崖っぷちに。だがその15分後、セネガルが失点し、日本は途中経過ながら2位に浮上した。西野は後半37分に長谷部誠を投入し、彼を通じてピッチの選手に「このままでいい。余計なファウルはするな」と伝えた。
「選択したのは(他会場で)万が一が起こらないこと」(西野)。リアリストが珍しく、他会場の結果にかけた。そして、ギャンブルに勝った。
2試合で采配が的中したことに加え、勝負師の勘も戻ったのかもしれない。(ライター・六川亨)
※AERA 2018年7月9日号