その時は無難な、言い換えれば面白みのない服を着ていたが、河面さんは良いところを探して褒めてくれた。その言葉に勇気づけられ、石井さんは明るい色のマフラーやTシャツを身に着けるようになる。すると塾の生徒たちが声をかけてきた。

「先生、それいいね」

「そう言われると不思議と自信がついて、服以外のことにも前向きになれたんです。バイト頑張ろう、職探しもしようと」。次第に自己臭恐怖が消え、ベンチャー企業の仕事に携わるなど生活も充実したという。

 河面さんは「精神的な変化を自覚するのは難しいけれど、見た目が良くなると周りの反応が変わる。それによって『自分は変われる』と納得し、前に踏み出せるのです」と話す。

 河面さん自身、体裁ばかり気にする家族への怒りを抱え、社会になじめず苦しんできた。有名企業の広告を多数手掛ける半面、キャリアに見合う実力はないと自分を否定し続けた。「半分ひきこもりのようなものだったので、気持ちはよく分かる。ファッションで彼らを応援したい」

 今後、吉澤さんは我孫子市の美容院でイベントを続け、河面さんは「ひきこもりも美容院も全国に存在するので、活動を広めたい」と話す。6月には東京・原宿でHTBPを開催予定だ。(ジャーナリスト・有馬知子)

AERA 6月11日号