年齢的にも焦りがあった。谷本さんが妊活をしていたのは30代前半から半ば。年齢を重ねれば、それだけ妊娠できる可能性は低くなり、障害のある子どもが生まれるといったリスクも高まる。

 高度不妊治療にも挑んだが「何かが違う」という違和感がぬぐえず、4年ほどで治療をやめた。ところが数年後、自然妊娠が発覚。治療のストレスから解放されたことや、自分の身体と向き合い、生理や排卵のタイミングを意識した生活を送れたことが大きかったという。

「一生懸命仕事をしていると、どうしても結婚も妊娠を考えるタイミングも遅くなる。同じ思いで苦しむ人を少しでもなくしたい、というのが開発のきっかけでした」(谷本さん)

類似アプリの中には基礎体温などと連動させ精度の高い予測ができるものも。しかし、コウノトリはあえてシンプルにした。

「あくまで夫婦のコミュニケーションの手助けをしたい、という思いなんです」(谷本さん)

 前出のアヤさんも、コミュニケーションの形を変えることで、夫婦関係に光明が差し始めている。夫が「5分だけでいい」と妥協し始めたのだ。キスやハグをしたり、夫のマスターベーションを手伝ったり。5分経つと夫は満足して自室に戻っていく。

 最近アヤさんは、ネットの掲示板で、こんな言葉を見つけた。

「セックスに若いころのような盛り上がりを期待するのは無理。自分の中で50%くらいの盛り上がりで良しとすべき」

「それくらいでいいのかな、と思い始めています」(アヤさん)

(文中カタカナ名は仮名)(編集部・市岡ひかり

AERA 2018年5月28日号より抜粋