『小保方晴子日記』(中央公論新社)の記述は2016年10月10日まで。「婦人公論」での連載をまとめたもので、出版後、同誌18年4月10日号には小保方氏のインタビューとグラビアが掲載された(撮影/写真部・掛祥葉子)
『小保方晴子日記』(中央公論新社)の記述は2016年10月10日まで。「婦人公論」での連載をまとめたもので、出版後、同誌18年4月10日号には小保方氏のインタビューとグラビアが掲載された(撮影/写真部・掛祥葉子)
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<インターホンの音が怖い。怖くて、マスコミに見張られている限り夜になっても部屋の電気がつけられない。何もしていないのに疲れていて眠る体力もない。噛まずに溶けてくれるものしか飲み込めない>(9頁)

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 マスコミに怯え、体調がひどく悪いことを大晦日の日記に書く若い女性に、同情しない者などいるだろうか?

 3月25日、全国の書店などで『小保方晴子日記』が発売された。『日記』は、2014年12月31日から始まる。理化学研究所の委員会が、小保方氏らが英科学誌「ネイチャー」に発表した論文の方法ではSTAP細胞を再現できないことを報告し、別の委員会が研究不正を認定した直後だ。早稲田大学から博士号が取り消されたり、放送倫理・番組向上機構(BPO)がこの事件を検証した番組について人権侵害を認めたりした経緯などが小保方氏の視点から描かれる。

 筆者は本誌16年6月13日号で、当時「婦人公論」に掲載された瀬戸内寂聴氏との対談にも、その少し前に出された手記『あの日』(講談社)にも、認定された研究不正を覆すような事実はまったく見つからない、と書いた。特に、対談で小保方氏が「バトンは繋がっていた」と言及した「STAPという名がついた論文」は、ドイツの研究者らがある免疫細胞を弱い酸に浸したところ、あらゆる細胞になる能力を示す「OCT4(オクトフォー)」は見られず、「細胞死」が観察されたというものだった。小保方氏らの主張を裏付けるものではないことを、その論文を引用しながら解説した。

 また、理研は小保方氏らの論文には最低4点の研究不正があると認定したが、小保方氏はそのうち2点については反論をしているものの、残り2点については『あの日』でも対談でも何も述べていないと指摘した。

 筆者の指摘を少しでも覆す記述は、この『日記』にはあるのか? 予想通り何もなかった。

 たとえば16年4月19日には<ドイツの研究グループからSTAP細胞の関連論文が発表された。STAPという名前をそのまま論文に使ってくれている>(212頁)と彼女は書いている。瀬戸内氏との対談で言及した論文だろう。しかし論文の内容には今回も触れていない。

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