保険会社の経営が苦しくなるのは、将来の死亡率や発生率、あるいは資産運用収益を楽観的に見込み、保険料を低く設定してしまった結果、後になって責任準備金が足りないという事態に陥るときである。言い換えれば、将来の支払い見込み額を過小評価したり、予想を超えるような水準まで金融市場(特に金利)が下がったりすると、保険会社の健全性に赤信号がともることもある。
今から約20年前の話になるが、2000年前後に中堅規模の生損保が相次いで経営破綻し、契約者が不利益を被るということがあった。
破綻した生保では、1980年代後半のバブル期に高利率の貯蓄性商品(個人年金保険など)の販売に傾斜し、これがバブル崩壊後の金利低下で重荷となり、資産運用にも失敗して、経営が行き詰まるというパターンが目立った。
損保の事例では上記パターンのほか、一つの事故で多額の保険金支払いが起こりうる航空保険を多数引き受けていたにもかかわらず、きちんとした管理を行っていなかった会社が、米国の同時多発テロ発生が引き金となって、破綻に追い込まれた。
破綻する生損保が相次ぎ、顧客の不安が大手生保にもおよんだ時代とは違い、現在は金融市場が多少動揺しても、当時のように健全性を確保できない会社が次々に現れる状況ではない。
ただし、生保会社にとって、マイナス金利政策に伴う未曽有の低金利が続く経営環境は、率直に言って非常に厳しい。円建てでは魅力的な貯蓄性商品を提供できないばかりでなく、金利水準が高かった時期に獲得した契約の負担が今も経営の重荷となっているためだ。
例えば90年代前半に30歳で終身保険に加入した人は、現在55歳前後なので、平均余命(55歳男性の平均余命は約28年)を考えると、まだまだ契約が続く可能性が高い。保険会社は終身保険の保険料を、死亡率のほか一定の利回りで運用できることを前提にして決めているので、今の歴史的低金利が続くかぎり、高金利時代に獲得した契約は会社にとって重荷であり続ける(裏を返せば、加入者には「お宝契約」である)。