ドイツでは1983年に、連邦憲法裁判所で共通番号が違憲となる可能性を示唆する判決が出た。それを受け、連邦議会では共通番号の導入を見送っている。ただ、近年、財務当局が使う「納税者番号」を他分野でも活用する動きがあり、再びその是非について議論になっている。フランスでも1974年に、個人情報を集約し、管理する計画があったが国民の反対により撤回されている。

 ドイツの個人情報保護の問題などに詳しい南山大の實原隆志教授(憲法学)はこう説明する。

「ドイツには、ナチスや旧東ドイツ政府など、国民が監視された歴史があり、また、国が個人の情報を管理し、利用できる状況は情報の自己決定権を侵害し、個人の行動などを萎縮させると考えられています。国が個人の情報を扱う際には、限定した範囲でしか利用できないなど、かなり限定されています」

 日本のマイナンバー制度についてはどう見るか。

 實原教授は「マイナンバーには有効な点も多い」と理解をしながらも、「個人情報提供について定めた規定が不十分で、これでは国を規律できない」と指摘する。

 マイナンバー法では、主に税や社会保障、自然災害分野で情報連携することが想定されている。どのようなときに情報を連携できるかについては規定が設けられているが、そのなかに「その他政令で定める公益上の必要があるとき」という規定がある。

 最高裁ではこの規定について合憲の判決が出ているが、實原教授は、実質的な白紙委任のような形になっており、政令も広く個人情報の提供を認めているため、問題だと見る。

「この規定では、マイナンバー制度で取り扱う個人情報を提供する場面や機関を明確にできていないと思います。警察や公安に情報を提供することも可能となっており、情報の自己決定権を侵害し、個人の行動を萎縮させる可能性もあると考えています。例えば、横断歩道の向こうに警察官がいると、悪いことをしていなくても緊張することがあると思いますが、このような緊張感の漂う社会にもなりかねません」

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