そんな片桐さん自身、日用品メーカー最大手の花王での法務経験や大和証券SMBCでのIPO審査業務などを経て、27歳で独立した若手起業家だ。
「きっかけは祖母の介護でした。祖母は定年後、家に引きこもりがちになり認知症を発症してしまいましたが、もし祖母が起業により社会とコミュニティーを築いていたら、もっと楽しい老後を過ごせたのでは……と考えるようになりました。高齢化社会が進む中、50~60代のシニア世代に定年後も生き生きと働いていてほしい。祖母の人生に報いたいという思いから、今の会社を立ち上げたんです」
死ぬまで社会貢献することで充実した老後を過ごすという意味では、設立するのはなにも会社である必要はない。
神奈川県川崎市で2人の娘を育てながら、地元の病院で手芸講習やリハビリ補助作業などを行っていた小倉美奈子さんが起業を考えたのは2011年の東日本大震災がきっかけだった。
福島県伊達市出身の小倉さんは震災直後から足しげく、故郷へボランティアに通ったが、「一時的なボランティアでなく、きちんとこの活動が継続するような仕組みをつくる必要がある」との思いから、一般社団法人ビーオリーブを設立。被災地の仮設住宅などで手芸講習を開催するようになった。
また、首都圏に避難した人たちのコミュニティーでも、針を使わないオリジナルの手芸「EGシルクMD」(特許庁実用新案登録)を1万人以上に提供。これをきっかけに、新たな34人の講師が誕生した。
「被災地を離れて本来の自由に浸り、無心に作品を作る自分だけのひとときは貴重です。作品が完成したときは、みんなの輪の中で、互いの作品を褒め合いながら、笑顔で心を通わせます。本当に幸せな気持ちになれる時間です」(小倉さん)
儲けや稼ぎはともかく、他人のために働くこと、社会に貢献することで人生は確実に豊かになる。人生に余裕が生まれた50代以降だからこそ、その豊かさを思う存分、味わうことができるのである。
まずは人材交流会などに参加して、自分と同じように起業を目指している人、起業したばかりの人との情報交換から始めてみてはどうだろうか。(ライター・中島晶子、安住拓哉)
※AERA 2018年4月2日号より抜粋