「どうしてそんなに仕事ができないの? あなた本当に大卒なの? 私は高卒だけど、あなたよりずっと仕事できるわよ」

 と言われ、私は俯くしかなかった。

 こうした状態を、小説が書けなくなってから10年以上も繰り返した。最後に勤めたのは高級スーパーのレジ打ちだ。品物をバーコードに通し、袋詰めにする。それが「ひどくのろい」と怒られた。スーパーにはコーヒーメーカーがあり、夜勤帯のバイトが掃除を命じられた。しかし、私は、コーヒーメーカーの内部の仕組みが、何度説明を受けても全く理解できなかった。

「あなたにはもう教えない。普通なら2回で覚えるよ」

 と先輩女性従業員は声を荒らげた。

 私は必死で仕組みを覚え、できるだけ早くコーヒーメーカーを洗浄しようと努力した。すると、家に帰ってから、店長から怒りの電話があった。

「コーヒーメーカーの掃除がひどく汚い。別のバイトが一からやり直した」

 この一件で、私は「もう無理だ」と悟った。誰にでもできることが自分にはできない。もう何かがおかしいとしか思えなかった。

 私はとうとう、病院の門をくぐった。

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