高齢になると代謝機能が衰えるため、太りやすくなると同時に、一度太るとやせにくくなります。また、外出する機会が減る、運動量が少なくなるなどの生活習慣の変化や、孤食などで偏った食事が肥満の要因になっている場合もあります。「肥満」は、高血圧や糖尿病などの生活習慣病の発症や、関節への負担の増加による変形性関節症などにつながるため、高齢者にとってもやはり大敵です。
しかし、スポーツ医学の第一人者・筑波大学名誉教授の田中喜代次先生は、「一般に高齢者においては、減量する必要がある『肥満』というのは、ごく一部に限られる」と話します。
「日本ではBMI 22を標準としていますが、これは60歳未満の研究データに基づいた数値です。BMI値が35以上の高度肥満ともなれば話は別ですが、メタボ健診の数値が高めであっても、高齢者の場合はその多くが老化にともなう生理的な変化であるため、過剰に心配する必要はないのです。メタボ健診の基準は、多くの高齢者に適したものとはいえないため、数値だけに振り回されないようにしましょう」(田中先生)
■数値は必ずしも一律に下げる必要はない
一般に、高齢期に入ると身長が縮む一方、心臓や腎臓の機能が低下してからだがむくみやすくなり、体重が増えてBMIが高くなります。そして高齢者の場合、BMIが高くなっても、それが必ずしも死亡リスクにつながるとは限りません。むしろ体重が減少すると免疫力が下がり、がんや心不全、COPD(慢性閉塞性肺疾患)、感染症などになるリスクが高くなることも考えられるのです。高齢者では、少し太っているくらいのほうが、死亡率が低くなることが知られています。
また、加齢による血圧の上昇は、血管の弾力性低下にともなう生理的現象でもみられます。コレステロールの数値については、最近の研究から高齢者では総コレステロール値の高い群で生存率が高いことなども報告されており、必ずしも一律に下げる必要はないことを裏付ける研究成果が発表されています。
もう一つ、高齢者に多くみられる特徴的な「肥満」があります。それが、「隠れ肥満」とも呼ばれている「サルコペニア肥満」です。
これは、BMIが正常で体重減少はみられないのにもかかわらず、筋肉量が減ったサルコペニアになっている状態です。筋肉が減少しているために、体脂肪が増加していても体重やBMIの値が低めに出てしまい、気づきにくいのです。