建ててから長い年月が経過したマンションは、設備の老朽化に加え、そこで暮らす住民も高齢化していく。歩行がままならずに災害時の避難が難しくなったり、判断能力が衰えて管理組合の理事を引き受けられなくなったりする人が増えることになる。建物が古くなって修繕費がかさむようになっても、年金生活では修繕積立金の値上げに耐えられない人も出てくる。マンションはこれから、建物と住民の二つの高齢化に向き合うことになる。(朝日新書『朽ちるマンション 老いる住民』から一部抜粋)
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■「あの人、認知症?」募る不安
「あと5年もしたら、どうなっちゃうんだろう」
東京23区内にある分譲マンション。1人で暮らしてきた70代女性は、ときおり不安に襲われる。
女性が住む高層マンションは、1970年代後半に完成した。大手ディベロッパーによる大型開発が相次ぎ、首都圏などで盛んにマンションが建てられた時期だ。
それから40年余り。新築当時に入居した人たちは、軒並み70~80代になった。
「あの人、認知症なのかな」
住民を見て、そう思うことは珍しくない。
「部屋に帰りましょうか」
エレベーターの前でぽつんとたたずむ高齢者に声をかけ、部屋まで連れていった。
「部屋に誰かがいる」
「お風呂で音がする」
しかし、そう訴えられても、それ以上はどうしてあげればいいのかわからない。
隣の部屋にも、認知症と思われる人が暮らしている。近くに暮らす家族が、本人が1人で出歩かないように鍵でもかけているのか、姿を見かけることはあまりない。
火事のときなどに逃げられるのか、心配になる。
自らも数年前にがんを患った。幸い今は元気だが、再発の不安は消えない。
■倒れたとき、見つけてくれる人は?
介護サービスも使っておらず、ふだん訪ねてくる人はほとんどない。急に倒れたとき、誰か見つけてくれるのだろうか。
女性が懸念しているのは、自らや住民たちの健康状態だけではない。